フリーターって、誰?

映画「山谷」とフリーター労組

山口素明(フリーター全般労働組合)

フリーター労組をやっている山口といいます、よろしくお願いします。この『山谷』の映画は、僕が学生の時に、僕は86年に大学に入っているので、その時 に大学祭で観たのが一番最初でした。まあ、まさかその20年後、労働組合やっているとは思わなかったのですけれども。この『山谷』の中でいろいろ、越冬の シーンとか出てきますけれども、そこにも支援に行ったりしていました。それからまあいろいろあって、フリーター労組っていう組合をいまやっています。
この映画、今自分たちが扱っているというか、やっている事と、非常に距離のある部分とすごく共通する部分があるなあと思って、今回観ていました。
距離のある部分っていうのは、まだ僕らがやっている組合はすごく小さく、まあショボショボやっている感じなので……。映画の途中で悪徳手配師を追及した りとか、あるいは飯場に押し掛けて行って団交やったりとかのシーンがいろいろ出てきたと思うのですけれど、そこまでしっかり自分たちはできているかという と、やっぱり距離があるし。あるいは、山谷っていう地域、場所があって、その場所の中で、野垂れ死にをゆるさないということや賃金不払いだとか、様々な不 当な扱いをゆるさないっていう闘いができていると思うんですが。フリーター労組で扱っているケースだとそういった特定の場所を持てないというか、特定の場 所がなくて、いろいろ様々な現場で仲間がなく孤立して、それでもうギリギリになって、どうしたらいいかっていうふうに相談がくるケースが多いので、そうい う地域っていうか場所を持てないというところですごく開きがあるなあという感じがしました。
共通しているのは、フリーターにしろ、派遣で働いている人にしろ、あるいは最近多いのは自営化されて個人請負ということで労働法の保護の下に入らないか たちで働かされている人たちがいまして。その人たちが多く経験するのが、結局徹底的に物扱いされて不要、いらないもの扱いされていくっていうことです。そ の点がすごく共通していて……。それに対する怒りというか、そこをどうしてもゆるさないっていう気持ちで相談に来る人たちがいます。それを人間として生き ているということをどうやって認めさせていくか、まともな扱いをさせるかっていうところに関してはすごく共通しているなと思いました。
学生の時は気が付かなかったんですけれども、今日この映画を観ていて初めて気がついたのは、押し掛けて飯場で団交やっている時に何を要求しているかって 言ったら、まずちゃんと話をしようっていう事を要求しているんですね。ああそうだった、そうだった、ちゃんと話をしようということを要求しているのかと 思って。その辺りは、今僕らが、交渉を申し入れて応じない所に対して、とにかくちゃんと話をしろよという形にもっていくのとまったく同じだなあと思って。 ちょっと自分的には感じ入るところがあったなあと思いました。
ここでちょっとフリーター労組を紹介しておきますと、フリーター労組っていうのは2004年にできた組合で、フリーターでも正規の雇用でも入れる、不安 定な暮らしを強いられている人たちの組合ということです。結成してから4年弱、まもなく4年になるわけなんですが、大体100名弱の組合員がいます。僕は 少しフリーター労組って言うには年かさがいっているんですが、まあだいたい20代、30代が中心の組合です。
それで相談に来るケースを、ちょっと紹介しておきますと……いちばん最初に僕らが扱ったのは、ある歯医者さんに勤めていた女性のケースなんです。メール で「明日から来なくていいから」と。で「気まずいだろうから、荷物は送ってあげるよ」と。「もう二度と来なくていいよ」っていうようなメール一本で解雇さ れた、そういうケースでした。もう絶対にゆるせない、もちろんそんな所で二度と働きたくないっていう思いもありつつ、しかしそんな扱いはゆるさないという ことで、相談に来て。それで交渉して解雇を撤回させるっていう交渉をやってきました。
あるいはネットワークビジネスの人とか。これも映画の中で出てきたシーンで、凍えそうになってこうやって固まっているオッチャンの姿がありますけれど、 おじやもらって「大丈夫?」って声かけられて、それで「オレはやるよ」っていうことを言うんですね。あの場面、僕も学生のとき観てすごく印象に残ってい て。そこをどう観るかっていうのはすごく複雑な、まあいろいろな議論があると思うんですけれども。やる気を見せるとか、働けるとか、自分はそこでやってい く力があることを見せ続けていくっていうのが、このネットワークビジネスの人の相談を聞いていて思い出されたんです。それがすごく労働者を苦しめていくん ですね。ネットワークビジネスなんて関係を食い潰していく仕事で、本人はネットワークビジネスの管理の側で就職したんで、むしろそれをやらせている形に なっていたわけなんですけれども。むしろ解雇されてね、そういう悪徳商売に関わらずにすんで良かったんじゃないかって話もあるんですが。
とにかく仕事をする能力を見せろと。「仕事をする能力がちゃんとお前ないだろう」ということでずうっといじめられて、それで解雇になるんですね。
そういった人たちが基本的にフリーター労組に加盟しているという感じになっています。
労組の活動としてできていることは、まだそんなにたいしたことではなくて。これからいろいろやっていかなきゃいけないことも多いんですけれども……。

かつての「寄せ場」が溢れだした
―「自己責任」という言葉にさらされて

映画で描かれている80年代の半ばから20年経て思うのは、この寄せ場の状況というのは、山谷をはじめ笹島、釜ヶ崎などが映画に出てきましたけれども、 かつてはそういう地域の中に押し込められていたと思うんですね。ところが今起こっている状況は、それがすごく外に溢れだしてきているっていうことなんじゃ ないかと思います。非正規雇用全体というのは、今は全雇用者の3分の1ぐらいを占めています。その雇用だけじゃなくて、先程言ったような個人請負というこ とで労働法の保護に入らないかたちで働かされている人たちも増えてきていると。
映画の中で典型的な飯場の原型が、福岡の例で紹介されていましたけれども、それと同じように、今もレストボックスというかたちで、住居も与えて仕事も与 えると。そこで働かせるっていうのは山手線の周辺にいくらでもあります。そういうかたちで非正規の問題であるとか、あるいは飯場労働の問題であるとかは、 今もこの社会の中に偏在っていうか、あちこちに見られるようになってきていると思うんです。
その中で僕らが直面してきたのは自分たちが厳しい状況に置かれて、例えば、まともに賃金を貰えないとか、あるいは不当な扱いを受けて解雇されるとかに対 して、これまでずっと「自己責任」という言葉ですまされてきて。そんな不安定な状況を選んだのは自分の責任じゃないかと、そういう不安定な状況に陥って貧 しいのは自分の責任じゃないかというような言葉がずっと投げ掛けられていて。それを働いている側もすごく内面化してきて、自分がそうなんだっていうふうに 思ってきたところがあると思うんですね。
けれども、フリーター労組は、それはそうじゃないっていうことを、これは社会責任の問題であって、賃金がまともに支払われないのは経営の問題であって、 働いている側の問題じゃないっていうことをずうっと言い続ける組合として活動してきています。それがこの社会の中で、人が物として扱われて人間として扱わ れないというような状況を変えていく一つのきっかけになっていけばいいかなと思ってます。
ええ、よくわからないままザアっと話してしまったので、少し何か質問をくれればありがたいかなと思います。

ヤクザ支配よりひどいシステム
―グッドウィルは4割ピンハネ

 司会 それではちょっと山口さんに、何か、今の労働者の現状ですとか、運動の状況だとかに関して質問といいますか、聞きたいことを具体的に出していただければ、山口さんの方も少し話がしやすいかなあと思うのですが。何かないでしょうか?
 参加者A この映画だとけっこう暴力団が関わってきてたんですけれど、現在の派遣労働とかには暴力団は今どういうかたちになっているんですか。
 山口 どうなんでしょうねえ。僕らが出会っているところではそんなかたちでは出ていないと思いますけれど、やっぱり飯場労働だとか目に見 えなくなっているところに関しては、ずっと歴史的に存在する問題で、それは排除されているわけじゃないと思いますよね。どちらかというと派遣労働とかは、 この映画の中で出ていたかたちが少し洗練されて、外に広がったっていう事だと思うんですよね。例えば、グッドウィルは廃業を決めちゃいましたけど、あれ だって結局4割、ピンハネしているわけですよね。仕事を請け負ってきて4割はねて。で、そのかわり自由な働き方ができますよ、こうやって携帯電話でできま すよというようなかたちでやってきたわけで……。直接の、そういうヤクザの暴力支配が及ぶような範囲よりも、はるかにはみ出しておこなわれてるのが現状で す。もちろん、例えば水商売のケースだとか、そういうヤクザがからんでいるところだっていくらでもありますけれども、一般的に広がってる派遣に関しては、 ヤクザが思いっきり浸透しているっていうわけじゃあないと思います。でもこっちの方がもっと恐いなあと。普通の人が普通に仕事を左から右に流して利ざやを 取って、それ以外の人たちをハケン君というかたちで差別してね、まともな権利も与えない。この映画の一番最初の方を観ていて、僕はびっくりしたんだけど、 手配師が仕事を紹介するシーンの時に、9500円って言ってたのね。20年前ですよ。20年前で9500円って……。いま派遣で9500円のデズラある かっていったら、まあ7~8000円で働いてるのが普通で。ひどい所になると、いろいろ天引きされてね、もっと減っちゃうのがありますから。ヤクザ支配も もちろん今なお一部で残っていて問題だけども、それよりもそういったシステムが広がっているっていうことが、問題なんじゃないかと思うんですけどね。
 参加者A ありがとうございました。
 参加者B 今のでちょっと関連して言いますと、労働者派遣法(1986年施行)ができたのはこの映画のすぐ後ですからね。だから映画に出 てくる手配師っていうのは、当時も全部違法なんですよね。で、派遣法で何が変わったのかというと違法が合法になったっていうことですから。だから、昔グッ ドウィルがやったら、グッドウィルはヤクザではないんだけれども非合法だったんですよね。で、非合法でできるのはヤクザだけだったということですよね。
 山口 そうですね、合法化されたんですね。

雇用の形態をめぐって
―経営側によるかってな首切りを許さない

 参加者B それと関連してちょっと聞きたいんですけども、例えば今、かたちが変わってグッドウィルみたいな日雇い派遣というようなかたち になったじゃないですか。で、最近秋葉原の事件とかがあって、じゃあそういうのは止めた方がいいって厚生労働大臣が言ったじゃないですか。でも、ニュース などで見てみるとグッドウィルなんかにすごい頼っていた人が困っていたりするんですけど。山口さんとしては、こういう派遣労働が厚生労働大臣の言うように 一律廃止になっていいと思っているのですか。あるいは、もし廃止された場合その有り得べき姿というのはどういうかたちがいいと考えてますか。
 山口 これはいろいろ論争になってるんですよね。日雇い派遣、日々雇用のかたちっていうのは基本的にこれを違法化しても、もとに戻るだ けっていう話でね。ヤクザ支配に戻るとかいうような話だったら話にならないんだけども。必要な仕事であれば、仕事がそれでなくなるというのは、これはウソ なわけですよね。例えば、そういう日雇い派遣を全面禁止にすると、日雇い派遣で働いてきた人たちは失業してしまうのではないかという議論があるわけなんだ けど。これはまずおかしくて。つまり、そこにそういう仕事があって労働者が必要であれば、常雇いで基本的にやればいいわけでね。長期の雇用を前提として雇 えばいい。それで、長期の雇用を受けた場合に、これは誤解があるんだけども、こちら側の例えば辞める自由がなくなるのかといったら、なくなるわけじゃない わけですよね。今の状況、日雇い派遣の状況っていうのはいくら持続的に仕事したいと思ってもできないし、向こう側が簡単に日々首切れるっていう状況ですよ ね。で、日々首切れるっていうような経営者側の自由をなるべく抑制させていくっていうことが、僕は必要なことだと思います。
働き方の理想っていうのは、それは個々人が本当は選べばいいだけなんですが、今の状況だとこちらが選ぶ余裕もないというか、選ぶような自由度なんかない わけですよね。だからそういう経営側の自由っていうのを何とか抑制していく方向で、やっていかなけりゃいけないというふうには思っています。
 参加者C 登録制で、派遣で働いている方が、山谷に今けっこういるというのを記事で見たことがあるんですけども、山谷で今暮らしている方と山口さんは関わりを持たれているんですか。
 山口 関わりというのは?
 参加者C 組合に入られている方とか。
 山口 ウチの組合の事務所は新宿で、山谷地域とはやっぱり距離があるんで、そこから来る人というのは今のところウチの組合にはいません。 登録型の派遣でいうと、これもいろいろ言われていて本当はちゃんと調べなくちゃいけないことだと思うんですけれども。山谷地域で実際に登録型派遣で働いて いるような、特に若い人たちが山谷地域にどれだけいるのかっていうのも、僕らはちゃんと把握してないんですね。一時期は山谷を忌避して、山谷で仕事を貰う ということではなしに、他の所で仕事貰っているって話はよく聞くんですけどもね。山谷地域で多いんですかねぇ……。
 参加者C 雑誌の記事かなんかでそういうのを見たことがあって、現状はどうなのかなと思いまして。
 山口 すいません、現状として山谷地域でどうかっていうことは、ちょっと把握してないんです。
 司会 おそらくその雑誌の記事というのは、ネットカフェ難民っていう言葉が社会的に取り上げられたあと、そういった若者たちが泊まれる場 所ということでドヤが新たに注目されて。つまり労働者が泊まっていた簡易宿泊施設ですよね。それが、山谷の労働者が高齢化して生活保護を取っていく中で、 ドヤにお客っていうか労働者が来なくなって。それで一時期バックパッカーの人たち……。
 山口 バックパッカーの利用は増えているって話ですね。
 参加者D 今高校1年生で中学3年の後半から貧困の勉強をしているんですけど、さっき「生きさせろ」ということを訴えただけで警察に捕 まったり殺されたりした人がいたじゃないですか。佐藤さんとか山岡さんとかもそういう犠牲者だと思うんですけども。今も「生きさせてほしい」と声を上げた だけで警察に捕まったりする例がありますよね。その事に対してはどう思いますか。
 山口 うん、良くないと思います。昨日も北海道でG8の行動があって、それで新自由主義に反対するデモの中で4人の逮捕者が出ています。 あるいはフリーター労組でも、2年前ですけどね、渋谷、原宿でデモをした時にサウンドデモを中止させられて。それで合計3名が逮捕されています。これは、 この日本社会の中の法意識っていうのがすごく歪んでいて、どんな主張をするにせよ、何かちゃんと人に迷惑を掛けずに、そして法律を守ってというような、ま あ法律は守ってやってるんですけどね。そういうような言い方が多くて。それで一旦逮捕されると、ものすごく不利益がある。その懲らしめのために逮捕する。 例えば、事件にして起訴をするんじゃないとしても、とりあえず捕まえてしまえば23日間拘留できるから。そうなれば働いてる人だったら23日間、「すいま せんけど逮捕されたんで休みます」とか言うわけにもいかないんで。ものすごくみんな萎縮させられる状況にあるんですよね。そういう不当に逮捕されること が、この世の中では普通にあるっていうことをふまえて、それをゆるさないようにしていかなきやいけないと思っています。

労働と生存のための組合
―社会運動と繋がる

 参加者E 映画の中で被害にあわれたというか、辛い目にあわれているのが在日朝鮮人や部落の方もいるということだったんですけれども、今 もそういった方たちの声が組合のほうによく届くのかということと、あと、今政府で外国人の移民一千万人計画というのが進んでいて。それが、例えば新しい カーストというか、すごい低賃金の労働力としてもし使われるようになったら、より日本の人たちの仕事がなくなっちゃうと思うんですけども。そういった移民 計画、今後の労働、仕事を探していくうえでどういうふうにみていけばいいのかを、もし考えていましたら教えて下さい。
 山口 まず一点目の在日の方、あるいは部落出身の方が多いかっていうことで言うと、僕らの組合はまだものすごく小さいですから。そこに対して特に多いっていうふうには言えないですね。
組合といっても、どういう接点で相談に来るかっていうこともあるんですね。ネットを通じて相談に来たりとか、あるいは電話を掛けてきたりとか、直接来所 の相談があったり、あるいは組合員の知り合いの知り合いとかのかたちで来るので。そこからすると、まだまだ僕らは手が無いっていう状況です。
ただやっぱり増えているっていうか、すごく扱ってるケースで多いなと思うのは、英会話学校とか語学学校の、アメリカ人などの外国人ですね。語学学校はひ どいですよ、状況が。日本の法制度の中では労働組合は地域に存在していいんですね。会社に存在しなくたって地域に存在して、その地域に存在する労働組合に 加入していれば、その職場にはたった一人であっても交渉の権利を持つんですよね、交渉権を持ってるんですよね。つまり会社に根ざすことができない組合で も、その権利を利用して個々の企業に対して交渉を行なうことができるんですね。ところが、アメリカは事業所ごとにその過半数の従業員を組織していない組合 というのは交渉権がないんですね。過半数組織しないと交渉権がないんですね。英会話学校の経営者がアメリカ人だったりすると、例えば交渉を申し入れたとす ると、「そんなのはアメリカでは通用しないぞ」っていうような言い方をするわけですね。アメリカでは通用しないと言われてもちょっと困るんだけれど。そう いうかたちで、外国人講師がものすごくひどい労働条件で雇われていたりする事が多いんです。
あと先程の移民一千万人計画っていうことですけれども、これはまず低賃金で働く人たちを入れるという、そもそもの発想に問題があるわけですよね。つま り、外国人だったら低賃金で働くだろうと。日本人が働かないような現場でも外国人だったら低い労働条件で働くだろうということですよね。そのことがまずお かしいわけですよね。それは同一価値労働、同一賃金の原則でちゃんとやるべきだということを、やっぱり組合としては主張していかなければいけないわけで す。そしてもう一つは、この背景というのは東アジア地域における圧倒的な賃金格差がありますよね。その賃金格差の問題は、そこからくるわけだから、それを どうやって是正させていくのかっていうことが、これはまあ単に労働組合だけではできない課題ですけれども、あると思っています。そのためにどうやって、ま あ古い言葉で言えば国際連帯になるんだけれども、繋がっていけるかっていうことを考えています。
 参加者F 活動拠点が新宿という話だったんですけれども、これまで新宿区とかの行政と関わりが活動の中であったりしたんですか。
 山口 まだないですね。先々はやはり、地域の問題として区役所にちゃんと要求をしていかないといけないなと思っているんですけども。ま あ、何せまだ小さな組合なんで、今受けている争議だとか相談に取り組んでいくことがまず第一になっていて。でも、今やっていることは、単に不当解雇を止め させるだけとか、賃金をちゃんと支払わせるだけじゃ、やっぱり終わらないと思うんですよね。例えば仕事をどうやって作っていくかとか。不安定な就労で、結 局どこかの企業に雇われなければ暮らしていけないという状況じゃなくて、どういうふうに仕事を確保していくかとか。特に東京地域だけじゃないんですけれど も、いろんな所で問題になっているのは住居の問題で。日本はすごい住居の、特に東京は住居のコストが高いですよね。賃金安くて、それでクビになったりする と、たちどころに家賃が払えなくなって追い出されちゃう。そういうことをどうしていくのかっていう問題は大きいんですね。そうすると単に企業との交渉だけ ではなくて、行政に対しても何かやっていかなきゃいけないだろうし、そういう手を考えていかなきゃいけないとは思っています。
労働組合っていうのは、単に労働の問題だけで終わらないんですよね。居住の話であるとか、あるいは人の繋がりの問題ですよね。孤立しないでどうやって繋 がっていけるか、繋がりをどうやって作っていくか、あるいは先程も話題になった外国人の人たちとの連携をどうしていくのか。差別をどうやって乗り越えてい くのかということをしっかりやっていかなきゃいけないんですね。そういう意味で社会運動と繋がっていかないといけないし、社会運動的にならなければいけな い側面がものすごく強いんですね。だから僕らは労働組合なんだけど、労働と生存のための組合というふうに主張して、活動の幅をちょっと広げていこうかなと は思っています。まだまだちょっと行政交渉はその先の課題ですけども、そのうちやっていきたいと思っています。
 参加者F ありがとうございます。

「生きたい」と「自由でいたい」
―二つを主張する言葉としてのフリーター

司会 ちょっとお聞きしたいんですけど、今、フリーターの労働者といったときにセーフティネットということが一つ大きな問題になっている と思うんです。で、『山谷』の映画の中に出てきた日雇労働者手帳というか、日雇労働保険ですよね。しばらく前に、あの保険をフリーター層にも適用するとい うような話が出たわけですが、ああいうのは現在セーフティネット的なものとして活用とか機能しているんでしょうか。
山口 これはあそこにね、その専門家が座っているから彼に聞いたほうがいいかもしれないけれど……。グッドウィルとかフルキャストとか有 名な日雇い派遣の会社がありますよね。印紙を貼らせなきゃいけないですよね。印紙を貼る許可を厚生労働省が出さないといけないわけですよね。ところが厚生 労働省がずっと渋っていて。で、フルキャストの渋谷店だったと思うんだけど、渋谷店のみにそれを認めたんですね。だから渋谷店に登録している人はそこの渋 谷店で印紙貼ってもらって、あれ14日稼働か……。
司会 1カ月14日ですね。
山口 そうですね、14日稼働だったらその後アブレ手当てが貰えるっていう仕組みなんですけれども。初めてそういう話を聞く人もいるかも しれないから、ちょっと説明しなきゃいけないけれど、つまり日雇いの人って雇用保険に入れないわけですよね。継続して同じ場所で働いてるわけじゃないか ら、日々別の場所で働くわけだから、失業した時の手当てが貰えないという事があって。それで日雇労働保険に入ると白手帳って言われてたんですけども、手帳 をもらって、日雇いの人たちは働きに行って、そこで手帳に印紙を貼ってもらって、それが月14日以上働いていると、あとは仕事がないときに一定のアブレ手 当て、つまり失業保険が貰えるという事になるわけなんですけど。それがいわゆる日雇い派遣で働いている登録型の派遣の人たちにも適応されるべきだろうとい うことはあったんですけれども。結局、それを適応すると言いながら厚生労働省はそのフルキャストの渋谷店のみに出して。で、ずうっと、例えば他の派遣ユニ オンだとか、グッドウィルユニオンだとかも要求してはきてるんですけれども、なかなかそれは認めない。厚労省そのものが認めない。日雇労働保険を拡大した くないっていうのがすごくあるみたいですね。
参加者G 昔は日雇いという働き方を選んだ本人が悪いっていう見方があって、だんだん変わってきたという話をされていたと思うんですけれど。今、実際活動されていて、企業とか政府とかではなく、一般の見方とか風当たりとかって、どのような感じなんでしょうか。
山口 これはまあ風当たり自体は主観的なものだから。かつてはというか、僕がそういうのを始めた時には、本当に「自己責任」、フリー ターっていったら、もう「自己責任」でおしまいという言われ方をものすごくされたんですね。ところが、まあいろいろ、そうじゃないんじゃないかっていう議 論も出てきて……。「自己責任」だったら自分の問題だから、自分が我慢するか、しないかの話になっちゃうわけだけど。けれど我慢しなくていいんだと。自分 の責任じゃなくて、これはやられてる事が不当なんじゃないかというふうに思う人たちが、組合にけっこう来るようになったし。それで周りからのバッシング も、まあそうですねえ、もしかしたらだんだん慣れてしまって聞こえなくなってるのかもしれないんだけど。
参加者G 変わってきたなって具体的に感じたのは、周りがじゃなくて、そういう不当だって言う人が増えてきたっていうことですか。
山口 そうそう。だから世の中全般からすると、それは「自己責任」って言う人が多いと思いますよ。でも、そういういろんな繋がりができてきて、それは変えられるんだっていうのが、まあ少し広がってきているかなという、希望的な観測をしているんです。
参加者G ありがとうございます。
司会 フリーターという言葉自体が、果たしていいのかどうかっていう気はしますけど、その辺は。
山口 僕は1986年に大学に入った世代なんで、ちょうどまあバブルの時に大学生活を過ごして。かといってバブルの恩恵なんか全くなかっ たんですけどね。それで、だからちょうどフリーター第一世代なんですよ。ただね、僕の時は、多分「自己責任」かなっていう感じもしないでもないんですけど ね。統計を見ると、大学を出ていわゆる非正規雇用に就く人たちの比率って5パーセントくらいだったんですね。ところが、今大学出て就職する人たちのだいた い40パーセントくらいが非正規雇用なんですよね。この数字見ただけで、これは自分の責任じゃないっていうことはわかるわけなんですよね。
ただね、そのフリーターという言葉にこだわるわけでもないんだけれども……。思うのは、今社会的な排除を受けている人たちと繋がり合いながら、自分たち もこの世の中でいらないものとされながらも、でも生きてるって現実はあるわけだから。よく「生きさせろ」とか言いますけれども、生存しているっていうこと を突き出していくことが第一なんですよ。しかし一方で、じゃあ生きるんだったら自由を我慢しなさい。自由にやりたいんだったら生きる事に関して辛くても しょうがないでしょう、みたいな、自由であることと生きること、生存のことを引き替えにしようっていう主張がものすごくこの社会に強いですね。で、これは わがままでも何でもなく、やっぱり生きたいし、そして自由でいたいって両方とも主張したいし、両方とも必要だと思ってるんですね。まあ、だから両方とも主 張する言葉としてフリーターというふうに名乗っていると、そういう意味もあるんです。
司会 だいぶ長くなってしまいました。この場はこれで終わりにしたいと思います。ただ、隣の部屋で少し話ができるような場所を用意してま すので、この映画を観た感想ですとか、あと山口さんにもう少しざっくばらんに聞いてみたいという方は残っていただいて、時間の許す限りご歓談ください。今 日はどうもありがとうございました。
[2008/7/6 planB]

2008年7月6日

plan-B 定期上映会

フリーターって、誰?
山口 素明(フリーター全般労働組合)

フリーター。もうずいぶん前からよく使われている言葉だが、この自由人(?)たちの「自由」は、そんなにロマンチックなものでもない。
そう、──「なるほど諸君は自由だ。ただしその自由は飢える自由だ」──そういう類いの「自由」にちがいない。「フリーター」という言葉の周りには「非正 規雇用」「ワーキング・プア」という語がまとわりついている。これは「不安定」「貧困」と直接に結びつく意味あいがあるだろう。するとフリーターとは、飢 えに至る貧困という不安定な自由を持ったひと、ということになる。
けれどもその「貧困」はフリーターひとりの生活状態というものではなく、人ひとりを「飢え」に至らしめる社会全体の「貧困さ」なのではないか?
今回のミニ・トークは、「フリーター」とともにこの社会の「ありかた」を鋭く問うているフリーター労組の山口素明さんに語っていただきす。──<サミット>前夜に。