2024年8月8日 ベルリン上映会報告

この上映会はドイツ・ベルリンのSavvy Contemporaryで開催された表現と労働に関する展覧会 “Labo*r - An Invitation To Action… A Basis For Hope” の一環として行われました。

2024年8月、イスラエル占領軍によるガザでのジェノサイドが始まって10ヶ月が経過しており、多くの人にとってこの上映は深い悲しみと怒りの中で行われました。ベルリンにはヨーロッパ最大のパレスチナ人コミュニティがあり、主に非西洋諸国のアーティストの作品を展示するSavvy Contemporaryのコミュニティにもパレスチナ人やパレスチナ解放運動に関わる人が多く含まれます。その反面、ドイツ政府はイスラエルへの無条件の支持を掲げて、パレスチナに関連する言論の弾圧を強化しています。

 

会場となったSavvy Contemporaryも、一つ間違えれば施設の閉鎖につながることが通告されている厳しい状況下での開催でした。

上映会には多様な移民ルーツを持つベルリン在住の人々約50人が参加しました。山谷や釜ヶ崎の運動に長年関わってきた経験を持つ参加者もおり、上映後には1時間半のオープン・ディスカッションが行われました。

最初に、山谷や釜ヶ崎をはじめとする寄せ場の現状や歴史的な背景について、現地の知識を持つ参加者から説明がありました。その後、現代のギグワークが非常に不安定な雇用形態であり、日雇い労働と類似している点や、イタリアで移民労働者を管理するマフィアの存在など、様々な感想が参加者から寄せられました。

また、佐藤監督や山岡監督の殺害、イスラエルによるパレスチナ人のジャーナリストや作家の暗殺について、抑圧に抗う文化労働者の身体的危険や弾圧についての議論が行われました。イラン出身の参加者が、イランで秘密裏に映画の上映会を行うコレクティブの活動と、そこに在籍する知人が政府により収監されていることを共有しました。

 

また、Savvy Contemporaryのような「脱植民地」をテーマにした文化施設が、ドイツ政府によるパレスチナに関する言論統制に屈していることに対して批判の声が上がりました。労働運動やパレスチナ解放運動のような人々の生存に直結する政治課題が「芸術」として消費されることへの危機感と、既存の構造の中からの変革を起こす限界についての議論が交わされました。

最後に、本上映会を含むアートスペースがどのようにして特定の人々を排除し、地域の再開発に加担しているかについての問題提起があり、ディスカッションが締めくくられました。ベルリンは、文化事業に豊富な公的助成金を提供していることもあって、世界中から多くの文化労働者が集まります。弾圧や紛争で出身国を追われた人も多く、ドイツのリベラル化された文化経済ではそのマイノリティの「痛み」や「記憶」を表現することが労働として評価されます。しかし、公的助成金に依存する既存の構造では、政府の弾圧に抗うことができないことが明らかになりました。文化を通じた抵抗を根本的に見直す必要がある今、「山谷ーやられたらやりかえせ」と40年以上続くその上映運動から多くを感じる上映会になったように思います。

(吉川彬 記)

2023年12月3日

寺島珠雄と「労務者渡世」をめぐって

前田年昭(調理補助パート労働者、元「労務者渡世」編集委員会代表)

 今回のミニトークのテーマは「寺島珠雄」です。寺島珠雄はアナキズム詩人。1925年東京生まれ、千葉で育つ。戦後、土工や鉄筋工などの肉体労働をしながら山谷などを流動し、66年以降、大阪・釜ヶ崎に移り住んだ寄り場の大先輩です。73年、「新日本文学」2月・5月号に寺島編「釜ヶ崎語彙集(抄)」を掲載(この「語彙集」の完成版は寺島の死後、2013年に新宿書房から上梓された)。74年、月刊の雑誌「労務者渡世」の創刊に参加する。「労務者渡世」は76年に16号分がまとめられ、風媒社から単行本『労務者渡世──釜ヶ崎通信』として刊行された。
 寺島はまたアナキズム詩史に通じ、『時代の底から 岡本潤戦中戦後日記』、『小野十三郎著作集』全三巻などを編集。著書も多数で、詩集『まだ生きている』『わがテロル考』『あとでみる地図』ほか、自伝『どぶねずみの歌 廻転し、廻転する者の記録』、『釜ヶ崎 旅の宿りの長いまち』『アナキズムのうちそとで わが詩人考』他、がある。1999年、『南天堂 松岡虎王麿の大正・昭和』の出版間際に死去した。
 今回、お話くださるのは、当時の釜共闘(暴力手配師追放釜ヶ崎共闘会議)メンバーで、寺島さんと「労務者渡世」を一緒につくった前田年昭さん。前田さんは新宿書房版『釜ヶ崎語彙集1972-1973』の編集者でもある。

2023年5月20日

〈脱走する主体〉へ
──ソウル・プレカリアート運動の歴史的形成 

トーク : Didi (人文地理・都市研究)

今回は韓国・ソウルからDidiさんを招いてお話を聞きます。
Didiさんは、2017年の末に山谷を訪れて以来、山谷の運動と併走しながら、先鋭的な研究を続けてきている。それは、「東京とソウルのプレカリアート運動の歴史的形成過程と、その運動の中で作られた都市的コモンズについての比較研究」(今年の1月に刊行された、Didi・他〈監訳〉『被害と加害のフェミニズム』のプロフィール紹介より)という魅惑的なものだ。
今回は私たちの要請に応じて、ソウルの運動に重点を置いた報告をしていただく。おもに「1960年代と1970年代のソウルの 〈月の村〉の形成と、その中で作られた都市住民運動が、現在のプレカリアート運動にどうつながっているのか」を話していただきます。
〈月の村(タルトンネ)〉とは、60年代初頭からの、韓国の急速な近代化の中で、都市部に人が急激に流入して形作られた〈貧民街〉だ。都市の下層民が生み出した闘いが、今の新自由主義の時代にどう息づいているのか? そして、新しい世紀のプレカリアート運動が持っている可能性は、どこに向かっているのかを探ります。

2023年 3月21日

構造的沖縄差別」を撃つ──③
安保3文書・防衛費倍増と、琉球弧

トーク:木元茂夫 (すべての基地に「NO ! 」を・ファイト神奈川)

〈ミニトーク〉の「沖縄」シリーズは、①〈「日米安保体制」70年、その歴史と現在〉、②〈天皇制と沖縄〉、それに、馬毛島の基地化反対運動からの報告〈琉球弧の要塞化を問う!〉と続けて、つごう4回目となります。
昨年末に政府は「安保3文書」を発表、「敵基地攻撃能力」の保有、南西諸島/琉球弧への日本軍(自衛隊)増強など、中国に対する敵視政策を明確にしてきています。今回は木元茂夫さんをお招きして、私たちが、いま、いったいどこに立っているのかを考えたいと思います。ぜひご参集ください。

【木元さんから】
岸田内閣は12月3日、防衛費を5年間で43兆円とすることをトップダウンで指示。12月16日には安保3文書(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)を閣議決定。
年が明けて1月12日には鹿児島県の馬毛島全体を自衛隊と米海軍の空母艦載機の基地とする工事がはじまりました。石垣島では3月に自衛隊駐屯地を開設すべく急ピッチで工事が進んでいます。与那国島にも電子戦部隊と地対空ミサイル部隊の配備が強行されようとしています。5月のG7サミットで主導権を握りたいのか、岸田内閣の暴走が続いています。
このままでいけば、中国との間で軍事衝突が起きかねません。それを回避する道をともに考えたいと思います。

2022年 10月15日

琉球弧の要塞化を問う!
 ──馬毛島の軍事化反対運動から

トーク : 和田香穂里(前・西之表市議)

馬毛島は、鹿児島県・種子島の西方約10kmにある自然環境に恵まれた無人島だ。
その馬毛島に自衛隊基地を造り、陸海空自衛隊の訓練拠点、「有事」の際の兵站拠点とし、併せて米軍空母艦載機訓練の恒久的な施設とする計画が進んでいる。
地元住民は、署名や市長選・市議選で、幾度も馬毛島の軍事化に反対の意を示してきたが、防衛省は島を買収し、着々と計画を進め、既に基地周辺の道路工事や港の浚渫工事に着手した。「反対」で当選した市長は現在計画を「黙認」中だ。
琉球弧の最北端に位置する馬毛島で、今何が起きているのか。琉球弧で進む自衛隊配備ミサイル配備計画(南西シフト)の実態はどうなっているのか。
「重要土地規制法」が成立して、国家の強権がますます強化されてきているなか、
種子島/西之表市の前・市議会議員で、反対運動を続けている和田香穂里さんに、
問題の本質を語っていただきます。